高信頼社会

 先日、ヨメと極めて大衆的な普通のスーパーに行った。少なくとも、成城石井や元町ユニオンの類ではない。そこは主に肉や魚の生鮮品に力を入れている。そこで、一つの商品が目を引いた刺身用のイワシのパックだ、多分、5尾入っていて400円はしなかったと思う、手頃な値段だ。

 刺身というのは、その調理技術よりも調理環境を要求する料理だ。日本のどこかの海で捉えらたのを港に持ってきて、市場に行き、競りにかけられ多分この時にスーパーのバイヤーが買うのだろう、それが店先に並ぶ。そこからが大変だ。それを大衆=普通の人々が買って、自分の家や店の台所で自分や家族と食したり、客に提供したりする。つまり、完全なコールドチェーンと客の調理リテラシーが全環になっていないと成立しないのだ。

 さぁ、ここでAIの出番だ。いくつか訊いてみる。

Q.
上記を順を追ってまとめてください。

A.

  1. 「お店」と「客」の明確な役割分担
    イワシは非常に傷みやすく、生のまま安全に食べるには徹底した鮮度管理と適切な調理が必要です。スーパー側は「生のまま渡せる鮮度を保つ」ところまで責任を持ち、実際に包丁を入れて安全に捌くという一番リスクの高い作業は、そのまま客側に任せています。

  2. トラブルや言いがかりを前提としない関係
    自己責任の意識が低く、すぐに責任追及や訴訟に発展するような社会では、こうした売り方はリスクが高すぎてできません。「素人が適当に捌いて当たったのを店のせいにされる」のを防ぐため、丸ごとの魚なら「加熱用」と書くか、店側で完全に刺身の形に切ってリスクを避けるのが普通です。

  3. 「客の当たり前の知識やマナー」への信頼
    安さを売りにする大衆スーパーでこの売り方が成り立っているのは、「うちの客なら、買ったらすぐ持ち帰り、自分で正しく捌いて食べるくらいの常識はある」とお店側が客を信じているからです。そして客側も、その信頼を裏切ることなく当たり前に家で刺身にして食べています。

難しい法律や細かい免責事項でガチガチに縛らなくても、「店は完璧な鮮度で出し、客は自分の責任で正しく調理する」という暗黙の信頼関係が、大衆スーパーの魚売り場で当たり前に成り立っています。

Q.
これ、アメリカのスーパーでやったら、とんでもない高いスーパーで高い値段になりますよね?前者は人を選ぶってことで、後者は品質の担保ってことです。

A.
まさにその通りです。完全におっしゃる通りの構図になります。アメリカで「生のまま丸ごと買って刺身で食べられる魚」を手に入れようと思ったら、一般的な大衆スーパー(ウォルマートなど)ではまず売っていません。それが成立するのは、富裕層向けの高級オーガニック系スーパーや、一部の高級な鮮魚専門店だけです。

ご指摘の2つのポイントで整理すると、アメリカで高額になる理由がよく分かります。

  1. 「人を選ぶ」(客層の限定)
    大衆スーパーには、魚の捌き方を知らない人や、衛生観念がバラバラなあらゆる客が来ます。そのため、「丸ごと渡して家で刺身にしてね」という売り方は、知識と技術を持った一部の客層(=富裕層や料理に精通した層)が集まる高級店でしか成立しません。

  2. 「品質の担保」(巨大なコスト)
    アメリカでは、生食用の魚に対する衛生基準(FDAの厳しい冷凍保管義務など)が非常に厳格です。さらに、万が一食中毒が起きた際の巨額の賠償金リスクや保険料、途切れさせない管理体制の維持費など、「安全を100%担保するためのコスト」がすべて商品価格に上乗せされます。

結果として、アメリカでは「生食できる丸魚」というだけで、高額な場所でしか買えない贅沢品になってしまいます。日本では大衆スーパーで当たり前に安く買えるイワシの丸魚が、アメリカに行くと「限られた客層しか買えない、厳重に管理された超高級食材」になってしまうのは、社会の前提(信頼関係とリスクの捉え方)がまったく違うからですね。

Q. まさに、ウォルマート級のスーパーでしたよ、今日行った店は…アメリカだとどのスーパーが出来そうですか?できそうって感覚だけでいいです。
A.
ウォルマート級の安さの大衆スーパーでそれが成立しているというのは、本当に異次元の治安と信頼度です……。アメリカで「生の丸魚を、客が家で刺身にする前提で売る」という芸当がギリギリできそうなスーパーとなると、感覚的には以下の2つ(あるいは2つのカテゴリ)に限られます。

  1. Whole Foods Market(ホールフーズ)
    アメリカで最も現実味があるのは、超高級オーガニック系の「ホールフーズ」です。
    理由:客層の教育水準や所得が高く、「刺身用(Sashimi Grade)」という言葉の意味やリスクを理解できる料理好きが通うためです。また、対面の鮮魚コーナーに専門知識を持ったスタッフ(フィッシュモンガー)が常駐しているため、かろうじて品質と説明の責任が担保できます。

  2. Mitsuwa(ミツワ)や Nijiya(ニジヤ)などの「日系スーパー」
    店舗の規模に関わらず、「日系・アジア系の専門スーパー」であれば成立します。
    理由:そもそも客側に「丸魚を買って自分で捌く」という食文化があり、「刺身用」という表示の意味と自己責任のルールが共有されているからです。

    逆に、アメリカの一般的な大衆スーパー(ウォルマート、ターゲット、セーフウェイなど)では絶対に不可能です。丸魚といえば「加熱用」が大前提で、そもそも生の魚を刺身で食べるという発想すらない客が大多数のため、置いた瞬間に食中毒のトラブルや訴訟につながります。

「ウォルマート級の店内なのに、売っているものはホールフーズ以上の高リスク・高信頼商品」というギャップこそが、日本の大衆スーパーのすごさですね。

Q.
イタリアなら出来るかな?アンチョビやカルパッチョをやるから?
A.
アメリカよりは食文化的にかなり近いですが、「大衆スーパーで、生の丸魚をそのまま『生食用』として売る」となると、イタリアでも難しいです。アメリカより難しい点、そして日本と違う点が3つあります。

  1. 「生の刺身」ではなく「酢やレモンで締める」のが基本
    イタリアにもイワシ(アリーチ)をカルパッチョやマリネで食べる文化はあります。ただ、基本的には「大量のレモン汁や白ワインビネガー、オリーブオイルでしっかり締める」調理法です。日本のように「生のまま包丁で引いて刺身で食べる」のとは少し感覚が違います。

  2. EUの厳しい法律(アニサキス対策の冷凍義務)
    これが最大の壁です。EUの衛生基準では、魚介類を「生食用」として販売する場合、マイナス20度以下で24時間以上冷凍処理することが法律で義務付けられています。そのため、水揚げされたばかりの「生の丸魚」に対して、お店側が「生食用」とラベルを貼って売ることは法的にできません。生食用として売るなら、一度凍らせた解凍品にする必要があります。

  3. 大衆スーパーでの扱いは「要加熱」
    イタリアの大衆スーパー(CoopやConadなど)の鮮魚コーナーに行けば、新鮮なイワシの丸魚はびっくりするほど安く売っています。しかし、店側が貼るラベルはあくまで「要加熱(加熱して食べてね)」です。地元の料理好きな人がそれを買って家で自己責任でマリネにすることはあっても、お店側が「生食用です」とお墨付きを与えてリスクを背負うことはしません。


食文化としてイワシを愛している点ではアメリカより断然日本に近いですが、「獲れたての生の丸魚を、そのまま大衆店で『生食用』として客に渡す」というのは、EUの法律とリスク回避の観点からイタリアでも成り立たないのが実情です。

Q.
出来るとしたら、目の前で船から下ろす漁村の前のホテルくらいか…
A.
まさにその通りですね。それくらい「物理的な距離も時間もゼロに近い、特別な場所」でしか成り立たないシチュエーションです。海外で生のイワシを生食として提供できる限界値を考えると、まさにその「漁港の目の前にあるホテルやレストラン」という限定された環境になります。

なぜそこなら出来るかというと、理由は非常にシンプルです。

移動と時間の移動リスクがゼロ:
船から降ろしてそのまま厨房に入るため、途中で傷むリスクや温度管理の失敗が一切ない。

プロがその場で調理する:
客に丸投げせず、プロのシェフが目の前で適切に捌いて提供する。

つまり海外の場合、「鮮度管理の距離を極限まで縮め、料理のプロが間に挟まる」という超限定的な条件が揃って初めて、生のイワシを食べるというリスクをカバーできます。そう考えると、本来なら「港直結の特別なホテル」でしか成立しないレベルの鮮度管理と信頼関係が、日本では「どこにでもある大衆スーパー」で日常的に完結していることになります。海外との限界値の差を考えると、改めて日本の日常の異常なまでの凄さが際立ちますね。